外装と佇まい。ミニマルに削ぎ落とされた形と質感
本体はアルミニウムの削り出し。薄さ10mm強の筐体ながら、剛性感に不安はない。エッジはわずかに面取りされ、指先に触れたときのあたりがやさしい。
重量は約570g。軽量だが、滑るような不安定さは感じない。四隅には控えめなラバーフィートがあり、机上に置いたとき、すっと収まるような静かな着地がある。
視覚的には、フレームとキーキャップの色が控えめに整えられており、空間に圧を与えない。机上の他の道具と衝突せず、存在を主張しない。この“控えめな主張のなさ”が、デスク環境を整える。

打鍵の構造。ガスケット、POMスイッチ、薄さと反発の関係
構造には、ガスケットマウントが採用されている。基板と筐体の間に弾性素材を挟み、打鍵時の衝撃と音を吸収する構造だ。これは厚型キーボードでは見られるが、薄型での採用は非常に珍しい。
スイッチは、Kailh社と共同開発されたPOM製のロープロファイルスイッチ。自己潤滑性が高く、打鍵時に指に「すべる」のではなく「吸い付く」ような印象を与える。リニア(Ghost)とタクタイル(Phantom)があり、どちらも打鍵荷重は軽めで、長時間の使用でも疲れにくい。
音は低く、乾いている。打鍵時の「コト」という音が心地よく、耳に残らない。音に含まれる余韻が少ないため、静かな場所でも使える。

操作性と実用面。無線接続、多デバイス
接続はBluetooth 5.0とUSB-Cの二系統。無線接続時は3台までのマルチペアリングに対応し、Fnキー+数字で瞬時に切り替えができる。接続の安定性も高く、入力遅延は感じにくい。
キーレイアウトは84キーの英語配列。矢印キーを含む75%配列で、ノートPCから移行しても違和感が少ない。ショートカットキーやファンクション列も搭載され、実用面においての不足は感じない。
一点、底面に傾斜角の調整機構はなく、常に固定角(約4度)で使用することになる。これは人によっては慣れが必要かもしれない。軽量なため、必要に応じて別途スタンドを用意するのがよい。

デスク上での収まり方。色、素材、周囲との相性
カラーバリエーションは、シルバーホワイトとスペースグレイの2色。どちらもマット仕上げのアルミフレームと、質感の高いPBTキーキャップを組み合わせている。
キーキャップはセンター刻印で、透過しない。これはバックライト視認性を犠牲にするが、見た目にノイズがない。表面はややザラついたマット質感で、照明の下でも反射が抑えられている。
LEDバックライトはホワイト単色。視認性向上ではなく、デスク環境の雰囲気照明として使われる。側面にはRGBのサイドライトが控えめに点灯し、過剰ではない演出として機能している。
まとめ
Lofree Flow84は、多機能や華美な演出ではなく、触れる部分の質を追求した製品だ。
音が静かで、打鍵感がやわらかく、手を置いたときの形に無理がない。それは一見、当たり前のようでいて、実現している製品は少ない。
選ぶべき理由はひとつしかない。「よく触れる道具の、感触と仕上げにこだわりたい」その感覚があるなら、この製品は選択肢になり得る。見せびらかすものではなく、自分のために選ぶ道具として。
